今回は、むし歯予防におけるフッ素の安全性とフッ素の使用による歯に対するメリット,フッ化物応用3選と2023年1月に発表されたフッ化物配合歯磨剤の推奨方法、フッ素を多量に使用した場合の副作用とについて解説します。
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むし歯予防にフッ素は安全?
デンタルクエスト
フッ素は自然界にある元素です。歯科で用いられる「フッ素」は、フッ化物の通称として使われています。フッ化物は緑茶や肉、魚などたくさんの食品に含まれています。そのため、基本的に安全です。また、むし歯予防のフッ素(フッ化物)応用は75年以上の歴史があり、安全性と有効性が確認されている方法です。
フッ素(フッ化物)応用によるメリット
さて、フッ素は歯にとってどんないいことがあるのでしょうか?
- 酸に溶けにくいフッ素を取り込んだ強い歯(フルオロアパタイト)にする
- 歯に溶け出した歯の成分が元に戻る(再石灰化)を助ける
- 細菌の働きを弱めて酸が作られにくくする
歯を溶かすのは、酸なので、酸に溶けにくいフルオロアパタイトができると、同じ環境では歯の強さが全く違います。また、一度溶けだした成分がもとに戻る再石灰化は唾液の力で起こりますが、フッ素にはそれを補助する働きもあります。また、細菌の働きも弱めるため口の中にフッ素があると一石二鳥でムシ歯予防ができます。
むし歯予防のフッ素(フッ化物)応用方法は3つ
むし歯予防に対するフッ化物局所応用には
という3つの方法があります。
①フッ化物配合歯磨剤の使用
2023年1月に日本の4学会合同で、科学的根拠に基づいたフッ化物配合歯磨剤の使用方法が発表されました。
大事なポイントを4つ確認しましょう。
① 6歳未満のフッ化物濃度は1,000ppm
これまでは6歳未満は500ppmの濃度が推奨されていました。500ppmの歯磨剤がむし歯を予防する効果がないわけではありませんが1,000ppmの濃度のう蝕予防効果のほうが高いことは明らかです(グラフ参照)
また、むし歯の予防効果は濃度によって変化しますので、量を増やしてもあまり効果は上がりません。大量に歯磨剤を使うと飲み込む量が増えることによる中毒のリスクを高めます。
② 6歳以上の年齢へのフッ化物濃度がすべて1,500ppm
③ 吐き出しは必要だが、うがいはしない、または少量の水で1回のみ
できるだけ口の中にフッ素が残るようにしましょう
④就寝前を含めて1日2回を推奨
1日2回以上行うことでむし歯の予防効果が高くなると報告されています。
それでは、ここからは年齢ごとのフッ素入り歯磨剤の使用方法についてみていきましょう
年齢ごとのフッ素入り歯磨剤の使用方法
歯が生え始めてから2歳までのフッ素入り歯磨剤の使用方法
使用料
米粒程度(1~2mm程度) 0.125g程度
成分として含まれているフッ化物の量 約0.1mg
フッ化物濃度
1000ppm(日本の製品では900~1000ppm)
使用方法
就寝前を含めて1日2回の歯磨きを行う。
1000ppmの歯磨剤をごく少量使用する、歯磨きの後にティッシュなどで歯磨剤を軽くふき取ってもよい。
歯磨剤は子供の手が届かない場所に保管する。
歯みがきについて専門家のアドバイスを受ける
3~5歳のフッ素入り歯磨剤の使用方法
使用料
グリーンピース程度(5mm程度) 0.25g程度
成分として含まれているフッ化物の量 約0.2mg
フッ化物濃度
1000ppm(日本の製品では900~1000ppm)
使用方法
就寝前を含めて1日2回の歯磨きを行う。
歯磨きの後は、歯磨剤を軽く吐き出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。子どもが歯ブラシに適切な量をつけられない場合は
保護者が歯磨剤を出す。
6歳~成人・高齢者のフッ素入り歯磨剤の使用方法
※6歳以降は成人と同じ扱いで問題ありません
使用料
歯ブラシ全体(1.5cm~2cm 程度) 0.5~1.0g
成分として含まれているフッ化物の量 0.5~1.0mg
フッ化物濃度
1500ppm(日本の製品では1400~1500ppm)
使用方法
就寝前を含めて1 日2 回の歯みがきを行う。
歯みがきの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1 回のみとする。
チタン製歯科材料が使用されていても、歯がある場合はフッ化物配合歯磨剤を使用する。
その他フッ素入り歯磨き使用時の注意点
乳歯が生え始めたら、ガーゼやコットンを使っておロのケアの練習を始めましょう。歯ブラシに慣れてきたら、歯ブラシを用いた保護者による歯みがきを開始しましょう。
子どもが誤って歯磨剤のチューブごと食べるなど大量に飲み込まないように注意しましょう。
要介護者で嚥下障害(飲み込みの障害)を認める場合、ブラッシング時に唾液や歯磨剤を誤嚥(誤って飲み込む)可能性もあるので、ガーゼ等による吸水や吸引器を併用しましょう。
歯の根元で虫歯が多発するようなケースでは5000ppmのフッ素濃度の歯磨剤が有効と論文等で推奨されています。
②フッ化物歯面塗布
日本では、歯磨剤の次に行われている頻度が高いのフッ化物歯面塗布です。一般的には歯科医院で塗るフッ素としてよく知られていると思います。
塗布の方法としては、高濃度のフッ化物ジェル(約9000ppm)を歯ブラシで塗る歯ブラシ法や綿球を用いる綿球法が多く用いられています
永久歯が生えてから2~3年は幼若永久歯と言い、歯がもろくむし歯になりやすい時期で、口の中のミネラル成分を吸収して硬い歯になっていきます。この時期にフッ化物の歯面塗布が最も効果的と言われていいます
国際的なガイドラインを参考にフッ化物歯面塗布の有効性についてみていきましょう
ヨーロッパ小児歯科学会 フッ化物応用ガイドライン
乳歯の高濃度フッ化物ジェルは乳歯に対するエビデンスはなく非推奨となっています。しかし、ヨーロッパではフッ化物ジェルはトレーを用いる方法をとっており、未就学の子供に対してはフッ化物を大量に飲み込むリスクに配慮しほとんど行っておらず、データが集められないこともエビデンスがないことにつながっています。フッ化物ジェルより濃度の高いバーニッシュは推奨となっています。ジェルよりもフッ化物濃度が高いバーニッシュの方がむし歯の予防効果が発揮され、かつ飲み込む量も少なく抑えられるため、「就学前唯一の方法」とされています。
③フッ化物洗口
日本では幼稚園や保育園、小学校で集団でのフッ化物洗口を行うことが勧められています。フッ化物洗口におけるむし歯予防効果の文献はたくさんあり、集団で行うことにより、公衆衛生の向上、医療格差の是正、医療費の削減につながると考えられています。
しかし、ヨーロッパ小児歯科学会では、フッ化物洗口も乳歯に対しては非推奨となっています(表参照)。理由は飲み込みによる慢性中毒のリスクのためです。WHOも同様に6歳未満のフッ化物洗口を禁忌としています。
反フッ素派の存在
デンタルクエスト
歯科医師の中には反フッ素を推奨する先生方がおられます。その方々はWHOが6歳未満のフッ化物洗口を禁忌としていることを拡大解釈して「海外ではフッ素禁止!」と言ったり、フッ化物無配合の歯磨剤があたかも良いもののように宣伝に悪用されている場合があります。しかしこれは、小さいお子さんが液を吐き出せず、飲み込んでしまうことを懸念しているためであってフッ化物自体は適量を守れば、高いむし歯の予防効果が期待できます。
デンタルクエスト
フッ素を大量に摂取することによる副作用
何事も適量が大切です。ここからはフッ化物を大量に摂取するによる副作用について解説します。
フッ素(フッ化物)を大量に摂取した場合に起きる可能性は3つあります
①フッ化物中毒
フッ化物中毒は体重1㎏あたり5mg以上のフッ化物を体内に取り入れた場合に起こります。起こった場合は腹痛や下痢、嘔吐などの症状が起こります。体重20キロの子供の場合は100mgです。
日本で販売されている子供向けの歯磨剤のチェックアップジェルは1本中にフッ化物約60mg含まれます。(1g中に約1mg) 1本頑張って食べても体重12㎏以上あると中毒にはなりません。
※体重12キロ⇒2~3歳
②歯のフッ素症
簡易口腔病理アトラス
永久歯にエナメル質の減形成や形成不全(うまく作られていない状態)を生じます。歯のフッ素症の程度および部位は、エナメル質(歯の外側の一番硬い部分)の石灰化時期におけるフッ化物摂取量・フッ化物摂取の持続期間(回数)などに左右されます。つまりエナメル質が完全に形成された後(6~8歳以降)で過量のフッ化物を摂取しても歯のフッ素症は発生しません。
石灰化時期にある出生~8歳までの小児に対して、「0.1mg/kg体重/日」のフッ化物を毎日摂取することが歯のフッ素症発生の最小影響レベルとされています。
病気について詳しく知りたい方はこちら外部リンクに飛びます(口腔病理学会の口腔基本画像アトラス)
10キロの子供(2歳くらい)は1日あたり1mgを超えないように気を付けましょう
20キロの子供(5歳~6歳)は1日あたり2mgを超えないように気を付けましょう
推奨される使用方法を守ればまず起きることはありません(年齢ごとのフッ素入り歯磨剤の使用方法)。
③骨のフッ素症
骨フッ素症は、インドなどの熱帯地方や中国の乾燥地帯でフッ化物濃度が高い飲料水を利用している地域での報告が多い症状です。
病態は4段階に分けられ、症状が進行すると脊柱靱帯骨化などが原因となった四肢麻痺が進行する運動障害性フッ素症という病態が報告されています。このような病態は、10~20ppmのフッ化物を含む飲料水を少なくとも10年以上毎日摂取している場合に生ずる、と推定されています。また、温暖な地域で飲料水中のフッ化物濃度が4~8ppmの場合、骨フッ素症の徴候や症状はほとんど現れないことが確認されています。
日本ではまず起きることはありません。
リン酸酸性フッ化ナトリウム(フルオールなど)で酸蝕症は起きるの?
歯科医院で塗布するフッ化物の中にはフッ素を取り込みやすくするため、液自体が酸性になっているものがあります。
※リン酸酸性フッ化ナトリウム(フルオールゼリーなど)
液が酸性なので、塗る頻度が多いと酸蝕症で逆に歯が溶けてしまうのではと思われる方もいるかもしれません。
リン酸酸性フッ化ナトリウムと歯質との反応機序や、塗布により耐酸性が向上するとされていること、および通常想定される酸蝕症の要因との曝露頻度の差の点から、月1回程度のリン酸酸性フッ化ナトリウム塗布により酸蝕症が発生する可能性はほぼないと考えられます。
また、これまでフルオール液歯科用2%およびフルオール・ゼリー歯科用2%において、酸蝕症やその関連症状の発生は報告されていません。
いかがでしたか。フッ素(フッ化物)はむし歯の予防に最も簡単に取り入れることができて効果も高い方法です。
フッ化物を上手に使って、むし歯予防に役立てましょう。
1)Twetman S. The evidence base for professional and self-care prevention–caries, erosion and sensitivity. BMC Oral Health. 2015;15 Suppl 1(Suppl 1):S4. doi: 10.1186/1472-6831-15-S1-S4. Epub 2015 Sep 15. PMID: 26392204; PMCID: PMC4580782.
2)Toumba KJ, Twetman S, Splieth C, Parnell C, van Loveren C, Lygidakis NΑ. Guidelines on the use of fluoride for caries prevention in children: an updated EAPD policy document. Eur Arch Paediatr Dent. 2019 Dec;20(6):507-516. doi: 10.1007/s40368-019-00464-2. Epub 2019 Nov 8. PMID: 31631242.
3)新潟県歯科医師会 フッ化物洗口マニュアル